自炊代行業は違法か? – 自炊代行へ差し止め判決

自炊とは?
 書籍をPCやタブレット端末など電子機器で閲覧できるようにするために、書籍を裁断してスキャナーで取り込み、画像データ化すること。
 自分でデータを「吸い込んで(読み取って)」、自家製電子書籍を作ることを自炊にかけて、こう呼ばれるようになった。

自炊代行業をめぐる裁判

 2010年頃から書籍を裁断して画像データとしてPCに取り込み電子化する「自炊」が流行し始めた。この流行のきっかけとなったのはiPadの販売だ。2010年5月にAppleから発売されたTablet型のPCは電子書籍に対する期待と需要をいっぺんに高めることになった。iPadは、電子書籍の分野で先行していたAmazonのKindleをはるかに超える人気商品となった。

 iPadの流行に伴って、電子書籍に対する関心が高まると、自炊を始める人が急激に増えていった。しかし、この自炊という行為、実際、個人で行おうとすると非常な時間と労力を要する作業で、個人でやるにはあまりに非効率過ぎるものだった。さらに自炊を始めるには、機材として裁断機とスキャナーを準備する必要があり、初期投資としてもかなりの出費が強いられた。まともな機材を購入しようとすると10万円前後必要となる。
 そのため、この作業を委託したいという要望は当初からあり、自炊が広がるとともにそれを代行する業者が現れるようになった。

 2012年頃には自炊代行業者が乱立する状況ができていた。しかし、この「自炊代行」という行為が知的財産権の侵害に当たるのではないかと今議論が起きている。出版業界や一部の作家が、電子化や自炊代行行為に反対し訴訟を起こしている。

 そして、昨年10月、知財高裁で自炊代行業者に賠償命令を下す判決が下りた。

・2012年11月作家、漫画家7名が自炊代行業者に対して行為の差し止めを求めて提訴。
・2014年10月知的財産高等裁判所は原告側(作家ら)の差し止め請求及び損害賠償請求のいずれも認め、代行業者側の控訴は棄却された。

 今回の裁判は作家側の勝訴となった。
 自炊代行は、著作権法第三十条において認められている「私的利用を目的とした複製」に当たらないとの判断が下された。
 音楽CDの複製は個人利用者の間で広く行われているのに、なぜ今回、認められなかったのか?一貫性に欠くように思われるが、今回の裁判では、利用者と複製者の「行為主体」が異なり、複製者は事業として行っているため、「私的利用の複製」の範囲とは認められないとの判断のようだ。
 自炊代行の流行に一定の歯止めをかける判決となった。

乱立する悪質企業

 今回の裁判は、特定の事業者に対してのみ判断が下された。そのため、この判決が「自炊」行為そのものを違法としているわけではないことには、注意が必要だ。また、自炊「代行」全般を違法行為として判断したものかどうかも、まだ議論されているようだ。
 作家や出版社側は、数ある事業者に対して個別に差し止め訴訟を起こすことで、自炊代行のすべてを防ごうとしているようだが、これはいたちごっこになっていく可能性の方が高いように思う。

 確かに、自炊代行業者が乱立する中で、明らかに悪質な著作権法違反を行っている事業者が存在したのは確かだ。
 例えば、以下のような事業者の手口が問題視された。

 Amazonなどから購入した書籍の郵送先を事業者に指定し、事業者は書籍のデータのみを依頼者に送る。書籍の返却は行わない。
 事業者が以前に自炊してデータ化している書籍について、同じ本の依頼があった場合は、前のデータを流用し、自炊を行わなかった本に関しては、転売する。(Amazonなどから購入した本を直接事業者に送らせているので依頼者は実物を見ていない。そのため、自分の送った本が自炊されたのかどうかは確かめようがない。)

 これは完全に「私的利用の複製」を逸脱した行為で、知的財産権の侵害に当たるだろう。(よくこんな手法を思いつくもんだ)

 また急激に事業者が増えたことで、質の悪い業者も乱立した。これは、利用者からも問題視された。ページが飛んでいる、画像の一部が欠けている、文字が潰れて読めない、書籍を紛失させられたなど、SNS上では、粗悪な事業者の報告が絶えなかった。
 このような明らかに悪質な業者は、訴えられて当然だし、市場から排除されるべきだ。

 だが。。。ここであえて言いたいのだが。。。

 書籍の電子化自体はもう時代の流れだ、ということだ。いまさら逆行はできないだろう。
 今後「自炊」に対する需要は増えていっても減ることはないと思われる。それは、海外での電子書籍に対する需要の高さを見れば分かるだろう。
 アメリカではすでに電子書籍の売り上げが紙の本の売り上げを上回っている。出版業界や作家は紙媒体の書籍と自炊も含めた電子書籍全般が共存できる方法を模索する方が先のように思う。
 個人で行う「自炊」に関しては「私的利用の複製」の範囲として当然認められるべきだし、現行の法律でも問題にされていない。一方、自炊の「代行」に関しては、今後もまだ議論が続くだろう。

 だが。。。出版社は、こんなことに反対しているよりも、電子書籍の出版を増やしていく方が、はるかに建設的だと思うのだが。。。
 電子書籍への新たな買い替え需要を掘り起こした方が、よほど出版業界全体の発展に貢献するだろう。結局、自炊代行を防ぐ一番の方法とは、出版社自らが電子書籍を積極的に出版していくことではないだろうか。

自炊代行を防ぐ最善の方法

 電子書籍は、生産のための追加費用(限界費用)が限りなくゼロだ。流通コストも在庫リスクもない。本来ならもっと廉価で販売できるものだ。価格の安い電子書籍が増えれば、自炊代行業者に依頼する人は、必然的に減るはずだ。

 なぜか。

 本を電子化したい人にとって見れば、正規の電子書籍が安価で販売されているなら、手続きに手間のかかる自炊代行業者に依頼するよりも、電子書籍に買い替えをした方がよほど楽だし便利だからだ。市販される電子書籍には、コピーコントロールがかかって購入者のアカウントでしか読めなくなる。データが流用される心配もない。
 本をよく購入する人にとって、本の置き場というのは結構深刻な問題だ。自炊を行う人は、その本の置き場の確保が最大の問題であって、電子化できれば、それが自炊したものであろうと正規の電子書籍であろうと問題にしない人が大半だと思われるからだ。自分自身も本の置き場には困っているので、最近は電子書籍への買い替えを進めている。確かに費用はかさむが、品質の怪しげな自炊代行業者に頼むよりは、正規の電子書籍を購入した方がまだましだと思うからだ。
(もちろん現在市販されている電子書籍はすべて「使用権」を購入しているだけで「所有権」はないので、それはそれで不安なのだが、それはまた別の問題。)

 現在の一般的な電子書籍の価格は、紙媒体の書籍とほとんど値段が変わらない。また、出版数そのものが少ない。これでは、電子書籍の利点がどれだけあっても、買い替えの需要は起こらない。本をBookoffで100円で買ってきて、それを自炊代行業者に頼んだほうがよっぽど安く電子書籍を手にすることができてしまう今の状況では、自炊代行業者へ依頼する人が増えるのは避けられないだろう。

 結局、自炊代行を防ぐためには、出版社自ら低価格の電子書籍を増やしていくしかない。つまり、これは出版社自身の問題だ。

 遅かれ早かれ電子化は確実に進展する。電子化の流れに反対するのは、もはや時代錯誤でしかないように思う。