格差問題をまるで理解しない(自称)専門家たち

書評(辛口増量)

三浦展『下流社会』(2005)

実態調査ではなく、意識調査

 総中流化の「1955年体制」から階層化の「2005年体制」へと社会は変化している、というのが著者の基本的な認識だ。
 だが、それを裏付けるためのデータはすべて階級意識の調査に基づいたものであり、生活実態を調査したものでは一切ない。つまり、階層化が実際に起きているかどうかの調査ではなく、自分を下流と意識する人が増えているという意識変化の調査である。ぱっと流し読みしただけだと階層化の実態調査と勘違いしそうだが、この本からは階層化の実態は一切分からない。本書で行っていることは、個々人の階級意識ごとに上流、中流、下流と分類し、それぞれの消費行動を比較する、ということだ。

  著者はこの意識調査に基づいて、下流とは「コミュニケーション能力、生活能力、働く意欲、学ぶ意欲、消費意欲、つまり総じて人生への意欲が低い」と結論付けているが、自分の生活実態を下流と答えた人が、消費行動において消極的な態度をとるのは当たり前で、ほとんどトートロジーのような研究である。そして消費行動に基づいて「ギャル系」だの「ヤングエグゼクティブ」だのとあたかも血液型のように人々を分類していく。私は、こうした調査には全く意味を見出せなかった。

 著者はマーケティングの専門家だけあって興味があるものは、世代別、意識別に見た集団の消費行動だけのようだ。次から次へとくだらない消費行動の類型が出てくるだけで、一向に階層化の実態は見えてこない。ホントに読んで無駄な本だった。

三浦展『下流社会 第2章』(2007)

前作以上の駄作

 前作に引き続き、階層化の実態調査ではなく、階層意識の調査。階層の実態ではなく、それぞれの個人が抱く階級意識によって上流、中流、下流に分類し、あとは消費行動に関する質問調査に基づいて類型化していくだけ。
 前作でもそうだったが、こうした手法では、階層化の実態も要因も見えてこず、ただ人々を類型化しレッテル貼りをすることにだけに終始してしまう。

 著者がただレッテル貼りをしているだけということは、著者のデータの扱い方を見ているとよくわかる。
 非正規社員が正社員を望むのは19.4%だったという2003年の厚生労働省の調査結果を引いて、著者は、正社員になると束縛が多いから正社員という立場は好まれていないと推測する。だが、正社員を望まない理由は他にもたくさん考えられるはずだし、著者が上げているデータのどこにも「束縛が多い」ということが正社員を忌避する理由であることを示す根拠はない。要は、非正規で働く人は、束縛が嫌いだから正社員になりたがらないのだ、という著者の先入観をただ表しているだけ。

 データからは全く読み取れない事実を自分の独断と偏見で決め付けていくのだから、この人にとってデータなんて全くの無意味だ。この著者はデータの扱い方というものが全く理解できていないのだろう。
 データが示しているものとは、消費行動の調査からこうした傾向が読み取れるということだけだが、著者はそこから全く勝手に先入観による憶測を働かせて、くだらない類型化とレッテル貼りをしてゆく。
 本書で行われている分析の一事が万事この調子で、調査の名に値するものでは全くない。こうした類型化とレッテル貼りで、個々の実態はますます見えづらいものになってゆく。著者のこうした手法は、知性の退廃を示す以外の何物でもない。

 本書から得られるものは、ホント言って何もない。ただ下流というのはこういう連中だと決め付けたい人にとっては、非常に面白おかしく読めるのだろう。ゲスな人間には非常によく向いている本だ。