年功序列を考えるための読書案内

城繁幸『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』(2008)

日本企業の閉鎖的な人事慣行から外れた人たちの生き方、働き方

 前作の続編というよりは、番外編といった内容。日本企業の人事慣行から外れてしまった人たちへの取材を通して、企業や労働市場にとらわれない生き方を示した個別事例集。

 日本の年功序列という制度は、極めて閉鎖的で固定的な労働市場を生む要因になっている。勤続年数でしか労働者を評価できないお粗末な日本の人事慣行が、横並びの昇進、昇級という合理性を欠いた世界でもまれな文化を生んだ。しかし、多くの企業が未だにこの横並びの人事を維持させるためにさまざまな手段を持ちいているのだ。

 採用人事ではまず、求職者を新卒、既卒で分ける。そして、ひとたび既卒に分類されると人事で不当に低い評価を受ける。「第二新卒」などという奇妙な言葉があるのも極めて日本独特のものだ。中途採用も極めて特殊な事例といった扱いを受けることになる。既卒や中途採用に対するこのような不当な評価は、年齢の異なる新人を採用すると、社内の横並びの人事評価の体系が乱れる要因になるからだ。多くの企業が、年功序列を維持するために年齢の同じ新卒を一括で採用するという方法に固執している。日本のこのような人事慣行は、新卒の一括採用という人事採用の際においても横並びの文化を生んでいる。そして、いったんこの枠からはみ出てしまうと、二度と正社員として企業へ戻ることは難しい。

 採用の時から定年にいたるまで、すべてが横並び。そして、横並びから外れた者に対しては極めて排他的。本書は、こうした日本の企業文化、労働文化に対して、背を向けた、あるいは向けざるを得なかった人たちの生き方、働き方を紹介している。

 働くということは、一つの自己表現だ。だとすれば、働き方は多様にあるはずだし、そうあるべきだ。働くということについての考え方や哲学は人それぞれにある。それが普通に認められ、受け入れられる社会を作るためにも、彼ら、彼女らの生き方はとても参考になるものだと思う。